大和猛蹴

う〜ん。どうしてこうもシステム論*1がハバをきかせてるんでしょうか。
同番組内、中西氏による日本代表のイングランド戦の解説なんですけどね。
前半の前半、マークを捕まえきれなくてイングランドにポンポンとボールを回されたのは、何も 4-4-2 と 3-5-2 というシステムの「相性」なんかじゃない。それから、その後に同氏が語る「数的優位」の話と絡めても矛盾がおきる。そして、ボール奪取位置に関する言葉足らずさ。頼むよ。ちゃんと準備して解説してくれ。

イングランド(以下、英)に翻弄された理由と数的優位の矛盾
中西氏は「英の4MFが日の5MFの間にハマるから」みたいなことを言っていたが、ベッカムとジェラードがどういうタイプの選手か考えてから言っていただきたい。彼らはアウトサイドプレーメーカーで、両翼いっぱいを使うのが上手いし、中へも切り込める。5枚ものMFがいる日本は、ワイドに広がる傾向がある上、サイドアタックが得意な選手を配置した。英が幅いっぱいにポジションをとってくれれば(こう期待する方が間違いなんだが…)両翼がマッチアップする可能性が高い。
では、実際にそうならなかったのはなぜか。日本が勘違いをして「開きっぱなし」にしたままでマークを軽んじたような動きをしてたから。そのためにセンターでプレーしていたほかの3人のMFとの間に大きなギャップを生んでしまい、英の両翼が見逃すわけがなく、中へ切り込むようなプレーを見せた。それに対して、日本は、ポジションを修正するどころか、引いて守ってしまった。ベッカムはいいけど、ジェラードはスピードあるのになぁ…。
つまり「システムを堅持してしまったから自由にやられた」と考える方が、可能性としては高い。
そして、最も問題なのは「後に数的優位を作るのが大切」というくせに、英4枚vs日5枚という中盤の枚数差について触れなかったこと。システム論でいけば、ぼーっとしてても常に中盤は優位ですよね?でも、数的優位という言葉が関わるのは、ボールを中心とした局地的な場面。ここをきちっと説明しなければならない。でないと、「良いMFの多い日本は3-5-2でいくべきだ」みたいな、お門違いのことをぬかす輩が増える一方だ。システムとポジションなんざ、個々のプライオリティを自他共に確認するためにつけられる「ラベル」の価値しかない。フィールドにレールをつけて、選手にその上を動けと指示するためのものではないのだ。

◇ MF でのボール奪取のくだり
「高い位置で奪って数的優位を作り、攻撃をさせたい」というのが中西氏が語った理想論&目標。これには全く異論はない。では、どの重箱の隅をつつこうと言うのかというと、「MFの高さで奪いたい」というのを「最も現実的な方法である」という解説をしなかったこと。
基本的な話になるが、近代サッカーでは、相手ゴールに近い位置(高い位置)でボールを奪取し、手数をかけずにフィニッシュする(シュートで終わる)ことを至上としている。守備戦術の向上による、時間とスペースの著しい減少が一番の理由。テマヒマかけて流麗なパスワークやキープからのドリブルなどということをしていては、かえって相手に帰陣する時間を与えるだけで、おおよその場合意味をなさないということである。
閑話休題
奪い返せる可能性があるのなら、GKへプレスをかけてもいいし、DFからボールを奪っても良い。むしろその方がいい。というのが大前提としてあるということを触れる必要がある。でなければ、それは理想論であり現実的ではないから、MFで奪い返せるように囲い込もうというコンセンサスをとらなければならない、という流れにならない。むしろ、MFでボールを奪うことが唯一絶対にして、最良の方法である(やりやすさと可能性の高さでは最良ではあると思うが)という誤解を与えかねない。

◇ボール奪取⇒攻撃について
高い位置でボールを奪うには、同時性が必要だという話も納得。これについては時間が無かったのかもしれないが消化不良なので自分の確認のためにもまとめておこうと思う。
簡単にいえば、「フィールドが広すぎるので網の目を狭めないとボールは取れない」ということ。解説すると長いんだけど、概念としてはこういうこと。これを、詳解してみる。

ボールホルダーは、できるだけ早く高い位置へボールを送ろうとする。こと、GKやDFラインでボールを持ったときは、早く簡単にボールを離すことが多いので、そこを追いかけてもひたすらふり回されるだけになる。そこで、チームとして「行かせて良い方向」について充分に共通理解をしておく必要がある。ボールが安全になるにはGKやDFが持つのではなく、MFやFWへパスするか、サイドバックであれば、大きくサイドチェンジをするか、となる。中西氏が「MFでとる」といったのは、この場面が、比較的ボールが宙に浮いている状態になりやすいから。守備のポイントとして、「ボールを安全な場所へ早く渡したい」プレーを、方向を限定して「させる」ことになる。これが行かせて良い方向へ追い込む第1段階。

追い込む方向は、タッチライン方向だったり、縦だけだったりする。また、ヨーロッパのトップクラブになると、強力なセンタープレーヤーで囲うために、中へ向かって詰めるという方法も取られる。共通するのは「選択肢を減らし、狭い場所へ追いやる」ということ。
選択肢とは、プレーの選択肢。ボールホルダーは、フリーであれば 常に3〜4の選択肢を持つ。中盤ならば、サポートの数だけのパスコースへのパスと、ドリブル、キープ。より相手ゴールに近ければシュート、自ゴールに近ければクリアが加わったりする。これらを減らしていくのに一番簡単なのは、ボールに一番近い選手がボールへプレスをかけるのに連動して、周りの選手がパスコースを消す動きをすること。パスコースがゼロになった場合、ボールホルダーができることは、キープやドリブルなどの個人プレーだけになる。更に、プレスにいった選手が有利な間合いにすると、テクニックの無い選手にはドリブルの可能性さえ消され、苦し紛れに蹴りだすか、キープして仲間のサポート(新しいパスコース)を期待するだけとなる。
方向を限定されて、追い詰められたボールホルダーは、動けるスペースが少なく、人の多いエリアへ押し込まれる。「人が多い=スペースが狭い⇒相手との距離が近い=ボール失う可能性大」
という理屈となる。実際にはもっと詳解なステップと理屈が存在するのだが、今回はここまで。


これが、チームとして「行かせてよい方向」を共通理解しておくことの必要性が生じる大きな理由である。つまり、ジーコがいままで守備上のコンセンサスや決め事をあまりせずにチーム作りをしてきたので、崩壊を招きそうなわけ。(結果こそ残してるけども)サッカーというスポーツの鉄則は「先守速攻」。ボールを取らなければ攻撃は始められません。ボールが持てない黄金の中盤にどんな攻撃をさせようとしたのか。謎は深まる一方だ。
とりあえずは、インド戦前にコンセンサスが出てきて良かった。

*1:トルシエが監督をしていた間にどこからか沸いて出てきた議題なんだけど、あんまり意味ないんだよなぁ。サッカーの戦術と呼べるところは、結局ケーススタディだし、選手たちの個性がどう組み合っているかによって、その考え方は多岐にわたるし。すなわちシステムというものにある種の定義や解釈を与えて何かを論じても意味がない