フランス 0-1 ギリシャ

試合の開始前、我らが代表を見て涙ぐむギリシャサポーターが映る。いつの日か、世界を舞台に有力国と渡り合う日本代表を見て、ああいう気持ちになれたらいいなぁ、と思った。

フランスは疑いようのない、ほぼいつものスターティングイレブンの 4-4-2 でスタート。この前見たイングランド戦から変わっているのは、ビエラ⇒ダクールくらいか。一方のギリシャは 4-5-1 。出場停止のブリザスに代わり、巨漢 FW のハリステアスが 1 トップを張るような紹介。ところが、試合が始まってみると、ギリシャのオフェンスには面白い仕掛けがあった。

立ち上がり、ギリシャがテンポ良くボールを回す。守備時も相変わらず高いコンセンサスでボールへのチェックとポジショングを流動的に繰り返してボールを追いつめる。フランスはやや様子見の立ち上がり。焦るでも入れ込むでもなく、じっくりとゲームに入る。無理な中央突破を避け、左右のサイドを広く使って前へ進む。入り方の差、というわけでもないだろうが、前半 4 分にギリシャがチャンスを演出する。左からフィッサスが見事なクロスを中へ入れたが、ハリステアスはわずかに届かず。こういう阿吽の呼吸のようなプレーに磨きがかかっているのだろうか、ボールの運び方が非常にスムースで、ポルトガル戦より凄みが増している気がする。
フランスは決して気を抜いているわけではないだろうが、ギリシャに自由にさせてもらえない。 13 分、軽いロブからハリステアスが競り勝ち、ポストプレーからニコライデスがミドルシュート。バルデズの正面だったが、良いシュートだった。その直後 FK からギリシャが先制かと思われたがラインを切らずにノーゴール。気持ちの差か、わずかづつ、ギリシャが良い方向にボールを呼び込んでいるような競り合いが続く。ほぼ互角にボールを奪い合っている。この攻撃を支えているのが、1 トップの両翼に空いたスペース。MF がどんどん飛び込んで、ポイントになっていく。ここを基点にすばやくボールをまわし、あっという間にバイタルエリアへ進入する。ほとんど「両ウイングが下がり目の 3 トップ」として攻め込んでくる。
奇跡的に失点をセーブした後、フランスがリズムをつかみかけるが「やっとギリシャと同じ高さに立った」という感じだろうか。それまでは、連携の悪さを個人技の高さと個々の気力でカバーしていたように見えた。 24 分、左を突破したリザラズが、ほぼフリーのトレゼゲの頭へドンピシャのセンタリング。しかしこれは枠の外。はじめてフランスのチャンスらしいチャンス。その数分後、今度はカラグリスが(またバルデズの正面だが)枠内へ強烈なシュートを放つ。精神論のようだが、ギリシャは試合開始から気持ちで全く負けていない。フランスに臆せず、自信にみなぎっていて、迷いが無い。フランスを呑みにかかっているようにすら見える。
フランスには変な迷いが見えるので、ボールの周りがいまいちよくない。よく回っているときは、だいだいギリシャの網の目の中を渡っているだけ。止まればあっというまに数人のグループに囲まれてしまう。ボールは持っているのに効果的な攻め崩しができないフランスと、攻守ともにチーム一体となってゾーンを押さえているギリシャ。さすがのフランスも簡単に割っていくことができない。ゾーンが小さいのでスピードに乗れず、個人突破もままならない。早くフリーの仲間へ、迷い無くボールを預けていくギリシャのリズミカルな展開とは好対照。象徴的なのが 38 分のカウンター。3 人を経由し、ミスにはなったが、左サイドへ数本のパスで展開。さすがに連戦で疲れが出ているのか、緒戦では見られなかった類のミスだった。
45 分を過ぎて、ようやくフランスらしい攻撃の形が見える。左サイドで頭が詰まったのを無理せずにテュラムが右へ展開。そこからジダンへ縦にパスが入り、ゾーンの合間を抜けてダクールへ。ライン際を縦に回ったギャラスへダクールからダイレクトパスが通るが、かろうじてギリシャ DF がカバーして前半終了。
前半とは変わって、ゆっくりとした立ち上がりだった 3 分、ゴール前に上がったロブのこぼれを、アンリが反転しながらたたくが、DF に当たってゴールラインを割る。ギリシャにツキは残っているようだ。このプレーの後、ギリシャのファウルが連続する。ボールと足を動かし始めたフランスに対して、スタミナが落ち気味、集中力もやや落ちた状態では、さすがにフランスを捕まえ切れないか。どんどん追い回すというのではなく、ガチッとブロックを作った状態でフランスに構えているので、フランスのボール回しが活性化する。前半はこの状態で全くと言っていいほどチャンスを作れなかったフランスだが「走り+パスワーク+ドリブル」がタイミング良く繰り出されているため、ギリシャは道中で止めることができない。ただ、ギリシャが非常によくトレーニングされているとわかるのは、最後の最後で抑えている集中力の高さと、いざというときのボールの逃がし方。少ないタッチであいているスペースへ逃がす様子は、すでに一流国と行って良い。軽快になったフランスは、狭いエリアをボールを広く動かしてこじ開け、数度のチャンスを演出するも、やはり最後にはギリシャに押さえられてしまう。その時間帯に得点できなかったことが、20 分にフランスを焦らせる。縦に送られたロブを追ってリザラズを軽くかわしたダボラキスからハリステアスへ冷静にハイクロスが送られてヘディング。ギリシャ先制。非常に打点が高く、コースもよく、文句なしの 1 点。
やはり、フランスの薄皮一枚残っているような、妙な違和感が得点に結びつかなかったばかりか、決定的な守備のシーンでハリステアスの前に走り込んだデコイに簡単につられてしまった。攻守ともに穴がある。優勝を経験する前の、かつてのなまくらなフランスに戻ってしまったような感じすらする。技術はある。シャンパンと称された小気味よいリズムもある。加えて体力面もトップクラスだ。ただ、戦う集団としては物足りない。
ジャック=サンティニは、28 分にトレゼゲをあきらめてサアを投入。活性化したフランスをギリシャは、多少足が動かなくなってきているので、ドリブルで持ち込まれると深くまで入り込まれるものの、しっかりと組んだ守備ゾーンは崩れない。 33 分にはピレスに代えてロテン。ギリシャは 39 分、バシナスに代えてツァルタス。バシナスはディフェンシブハーフ的に動く選手のようだけど、ツァルタスプレーメーカーなので、レーハーゲルのメッセージは恐らく「攻めろ、引きこもるな」。早々に守備的な布陣を引いて逃げ切りたがる傾向のある監督も多い中、異例とも言える采配。これで同点にもなれば、戦犯扱いされることは必至だと思われる。その条件の中でこういったカードを切ってくるというのは、すごいとしか言いようがない。その直後、アンリが決定的なヘディングシュートを放つが、わずかに枠をそれる。この試合、アンリを含めて決定力がなさ過ぎる。繰り返しになるが、かつての「魅力的だけど、勝ちきれない」と言われた時代に戻ってしまった感じがする。
とはいえ、ロスタイムに入ってのフランスの猛攻は素晴らしく、一流国のフルパワーを見る。しかし、ロスタイムを耐えたギリシャが逃げ切ってタイムアップ。ギリシャ辛勝ながら大金星。
ロスタイムでやっぱり惜しいと思ったのは、左サイドをテュラムが上がったシーン。裏を取るタイミング、クロスの精度…十分こなせるとはいえ、やはり急造センターバックであり、「サイドアタッカーテュラム」でなかったのはもったいない。惜しい。もしかするとクラブでの疲れが残っていたのかもしれないが、フランスの底力が出なかったのは非常に残念。個々の選手が自分のクラブで披露しているプレーを考えれば、いかにギリシャがトレーニングされているとはいえ、それを切り崩していくだけのポテンシャルはあったはず。それが出せなかったのは、チームのオーガナイズに問題があったのだろう。チーム作りのヒントが満載されたとても良いゲームだったと思う。