フィオレンティーナ×ユヴェントス(CS)

フィオレンティーナにいたロベルト=バッジョユヴェントスに引き抜かれてからの因縁試合。スタジアムは、アルテミオ=フランキ。実況の八塚氏の資料によれば、この日(4月9日)は、ユーヴェが初めてスクデットを取った日であり、その年(1905年)からちょうど100年後なんだとか。日本サッカーはまだまだ先があるね、と改めて思う。
なにしろこの試合のフィオレンティーナは強かった。ユーヴェが右サイドのゼビナを欠き、ブッフォンがややおかしかったとはいえ、3 度もユーヴェのネットを揺らしたのだから。そのポイントは 4 つ。
1 つ目は、前線守備の活発さ。ポジション、高さを問わず、ユーヴェがディフェンスラインでボールを回すときにさえ、プレッシャーをかけ、攻撃のスピードが落ちるやいなや、迷わず 2 人以上で囲んで取り返す。
2 つ目は、ユーヴェが縦のポジションチェンジで抜けてくるところを、ことごとくつぶしていたこと。強いチームの特徴で、前に当てた選手はガンガン追い越して前線へあがってくる。これを捕まえきれないと、オーバーラップした選手は、スピードに乗ったまま簡単に相手 DF を振り切ってチャンスを作ってしまう。ところが、この試合のフィオレンティーナは違った。1:前でプレッシャーをかけ、中を切る。2:ユーヴェの選手が前にあてて追い越し始める。3:これのを見逃さずに追走する。4:相手にフリーでキープさせないようにプレッシャーをかける。5:味方選手が、キープしている相手を押さえているところを追い越して戻る。6:縦にパスが出たところを、追い越した選手が押さえる。という守備を繰り返して、決して裏でフリーにしない。高い意識やバランス感覚がないと、グッチャグチャにかき回されるところなのに、ヴィオラは混乱しないでこれをやってのけた。
3 つ目は、パスの精度と展開の早さ。受けて、パスして、受けて、パスして…のような、誰かを探しながらパスをしているのではなく、近くの選手、空いている選手へどんどんまわしていき、時間を作る。いつもなら、ヘンな自信の無さそうなパスがぶれたり、インターセプトされたりしてピンチを招いていたが、危ないスクエアのパスはほとんどなく、フィードの精度やサイドチェンジも効果的で、がっぷりとした試合展開に持ち込んでいた。また、カウンターのキレに代表されるように、思い切りのよいボール回しと切り込みで、ユーヴェ守備陣を揺さぶる。 1 点目が象徴的で、ビリンデッリの甘い間合いを見逃さず、パッツィーニが、ディフェンスラインの前から強力なミドルシュートを放ってブッフォンをやぶった。
4 つ目は、セットプレーの強さ。ユーヴェにはチャンスを許さず、レギュラーを欠くとはいえ、堅守のユーヴェからセットプレーで 2 発なのだから恐れ入る。
という好調さの影でおかしかったのがGKのセハス。コミュニケーションミスなのかもしれないが、2 失点はこの人の責任だといっていいと思う。スーパーセーブを見せた一方での不安定なプレー。そのために勝ち点 1 にとどまってしまったのは勿体無かった。
一方のユヴェントスは、前述の通り、右のゼビナの代わりのビリンデッリと、その前でいつもなら縦にガンガン抜けていくカモラネージが、パッツィーニにやられた上、左サイドバックキエッリーニを崩せない。そのため、左のネドベドに攻撃の期待がかかるも調子はまだイマイチで、スーパーぶりがなりを潜めている。しかも、カモラネージが使っていない右へも流れるものだから、さらにカモラネージの進攻ラインを消してしまうという妙な悪循環。ペッソットとタッキナルディディフェンシブハーフは悪くないものの、ヴィオラのカウンターがここを越して裏を取るため、ほぼ中盤は無力化。その割に繋いでいくユーヴェを、ヴィオラはガンガンつぶすというリズムが、後半中ごろまで続く。なんといっても、ヘンだったのがブッフォン。パンチングを何度もミスし、相手を誉めるべきスーパーゴールとはいえ 3 失点もしたは DF だけの責任ではない。反対に好調なのがデルピエロ。不調なときのコネコネするプレーはなく、シンプルにプレーし、失点直後にユーヴェの 1 点目をマーク。その後も退くまで、かみ合わないユーヴェの中で奮闘。珍しくオーラが漂っていた。そして、点取り屋がいる安心というのを改めて感じさせたイブラヒモビッチヴィオラ GK セハスのミスを見逃さなかった 2 点目、サラジエータのトリッキーなヒールパスを受けてゆるやかに決めた 3 点目。それ以外にも遠目から思い切りのよいミドルシュートを放つなど、存在感抜群。久々にまじまじと見たが、シンプルすぎず、あるところではボールコントロールのよさを見せつけるかのようなドリブルやキープを見せ、自分のリズムでプレーしてる感じがする。アヤックス時代はもっとドリブルしていたみたいだし、残りの試合と来期は大いに期待できる。
得点と結果はともかく、とても良い試合だった。フィオレンティーナは、この戦い方ができるなら、チャンピオンズリーグ圏内も夢ではなかったのになぁ…と思う強さ。ユーヴェはよく追いついたという感じ。たまにボケーっとやられるのもユーヴェだし、負けそうな試合を引き分けに持ち込むのもユーヴェ。ミランに首位を明渡したが、このまま追走すれば、5月8日の直接対決が、正真正銘の天王山になる。