アジア杯の内容

韓国戦の内容を記そうと思って録画を見返したところ、延長戦がはじまったところで切れていて、めげた。仕方ないので、まだ記していない試合も含め、アジア杯の日本代表についてメモしておこうと思う。


1)台所事情
とにかく人選で苦戦した気がする。例えば、韓国も負傷者を見送っており、日本だけではないのはわかるが、闘莉王、播戸、稲本、中田浩二三都主、宮本…と、普通に呼ばれてもおかしくないメンバーがさまざまな理由で外れてしまった*1。おそらく…だけど、播戸の離脱はことのほか痛かったように思う。今回のメンツをざっと見渡して、バカができそうな(≒はしゃぐことができる)選手が居ない。中澤がOZMAの真似をしようと、高原が鍋っちで面白いことを言おうと、千葉組が掛け合い漫才を披露していようと、そういうことではなく。となると、疲れたときにどうしてもスッキリサッパリと気分を切り替えるのが難しいんじゃなかろうか。あくまで推測でしかないけど、ガハハと笑っていれば、ミスの反省から深刻*2になる前に、フツーに次へ入っていけるような。プロだろう?ってつっこみもしたいのだけど、羽生の「PKは蹴りたくなかった」というコメントが象徴的だ。重圧に耐え切れずに…ではなく、重圧に苦しみながら青いユニフォームを着ていた選手が他にいてもおかしくない。大会ってのは異常な空間だ。衆人環視の中、よくても悪くても、サポーターからは拍手喝采が、相手サポーターからはヤジやブーイングが飛んでくる。こんな場所、他になかろう?それは経験しないとわからないものだし、それを凌駕するのは生まれ持ったパーソナリティだが、大舞台で最初から、何があっても心底物怖じしない日本人、何人いるのかね?


2)身についていない戦い方:攻撃編
ボール回しの段階では見るべき点はあるし、何気なく眺めていたら欧州とか南米のチームのように見えることすらある。そのくらいスムースで良い場面が多いのだけど、疲労が蓄積してくる後半でパスミスや行き違いが目立つことからして、身体が完全に覚えているわけではないことが伺える。クラブに帰っても、チームのスタイルがどうであろうと、意識だけは高くもって、早く慣れてもらいたいもんだ。
これは時間の問題だからまだ良い。目的へ成就しない回数が多すぎる方がとても問題。得点が取れないという前に、ここが重要な修正ポイントになってくる。この場合の目的は「最終目標」のシュート(あるいは得点)ではなく、その前段階のお膳立てのことを指す*3。特にラストパスやセンタリングの精度が低いことが、ミドルシュートやドリブルをしないことと相まって、ほとんどのアタッカーから怖さを奪ってしまった。怖がられていたのは高原だけ。結果を出していたことが大きいが、ペナルティエリア内での反転スピードやトラップのコンパクトさ、キープ力、隙を突いたシュートなど、ブンデスリーガでコンスタントに出場するということの意味の大きさを存分に披露していた。つまり、何かができない(下手)なら、得意なことは失敗してはいけない。でないと、怖くない選手になってしまう。下手すると「ちょっとボール扱いが上手い、体力がある一般人」とさほど変わらないレベルにさえ見える。
それから、ボールを失うことと、失うリスクを取ってでも行うべきプレーのバランスが著しく悪い。判断基準が透けて見えるようなプレーってのは問題だろう。例えば、ペナルティエリア付近まで進出しても、中に2枚以下ならバックパス、中が多くてもDFが揃っていたらバックパス、など「条件設定」に基づく素直なプレーが目立った。このblogでは何度も何度も言っていることなんだが、フェイントをするには「ホントに見えるウソの動作」がいるし、スペースを空けたければ「一度、そこから人を取り除く動き」が必要だ。なんでソレがいつまでたっても出来ないのかね。個人レベルで。中村俊輔がよくやる動きとして「左足でセンタリング(シュート)すると見せかけて切り返して交わす(あるいはパス)」というのがある。これが一番わかりやすい例の1つだ。いつも左からサイドチェンジやセンタリング、シュート、ロングパスといった、モーションのデカイ、相手にとって致命的になるプレーを連続し、成功させているからこそ、DFにとって絶対に譲れない領域とタイミングにおいて、中村俊輔の「左キックのモーション」は、極上の餌となる。実際にも、その餌食となってタックルを空振りしたDFが数多いのはご存じのとおり。ここが変わるだけでも劇的に攻撃が増えると思うんだが…。


3)身についていない戦い方:守備編
足が動いている時間帯の中盤守備や、縦関係のチェイシングは安定していたと思う。特に2トップや、巻がいる構成での攻守の切り替えと守備開始位置の高さは、アジア各国を見回しても、まねできるチームはないだろう。更には、コンパクトに押し上げたラインで戦い続けることや、常に高い位置から守備を開始することに「拘泥しなかった」のは進歩だと思う。トルシエ時代は「いつも前線から追い込んでコンパクト」にし続けることを強制され、ジーコ時代にはそういう守備戦術はほとんど無かったため、トルシエの遺産+選手によるカスタマイズで機能していた。しかも、W杯が近づいた頃になってようやく「やりやすい」という理由で3バックに決まったという経緯があるくらい、思想めいたものはなんにも無かった。オシムが進めているのは、「意識的に、ボールを運ぶ選択肢を減らす」「ボール奪取に瞬間的に人手をかけることをいとわない」というごく当たり前のプレーが多く見られるくらい。強いて言えば、冒頭にも触れたけど、今のトレンドになりつつある「縦関係のチェイシング」を徹底させている部分くらいか。とはいえ、これはやらないと守りきれないので、基本的な考え方、戦い方として外したり、カスタマイズしたりするレベルの話ではない。よって「これがオシム流」みたいに見える動きはあまりない。
ではなぜ、韓国戦以外全試合で失点したのかといえば、「攻撃のために守備が手薄になるリスク」をどの時間帯でもカバーする(意識する)だけのレベルにまで至ってないことだろうと思う。「そんなの基本だろ」と言いたいところだが、オシムは攻撃だろうが守備だろうが、動きを増やすことを要求する。これは印象でしかないのだけど、クラブチームでやるよりも体力が目減りしていっているように思う。となれば、集中力のレベルは落ち、身についていないプレーは精度が落ちるか、できなくなってくる。後半の中盤過ぎによくあったパスミスや意思疎通の欠如のようなコンビネーションが頻発したのが、そう感じた理由だ。人間、身体が覚えていない動きの精度や正確性を上げるには、思考で補うしかないのだから。


4)スケープゴート
最後に、試合内容とは直接的には関係ないことで〆てみる。
試合が連続する中で、成績が伴わない、あるいはスッキリとした結果が出ないと、マスコミによって戦犯というものが作られていく。その手法を覚えた一般人によって、解任論とか招集するな、といった論調がblogで量産されていく。
問題なのは、そういったことが出てくることではなく、「いつもいつも同じ展開」になるところ。持ち上げて落とす。得点出来なかったら「不要」。失点したら「不要」。負けたら「解任」。勝てなかったら「解任」。優勝できなかったら「いままで最弱の代表」。並べるときりがないのでこの辺にしておくが、とにかく、どれを読んでもおおよそは個人の雑感レベルでしかない。なぜなら、該当する人たちに切り込んでインタビューしてるわけではないから。画面を見て、競技場で見て、記者会見を経て書かれる。ちょっとマテ。そんな情報だけで決めるのは問題じゃないか?監督の考えをちゃんと聞いたか?過去の試合の統計は取って裏付けているか?ダメなことを考察してるか?理由もなく過程も飛ばして結果だけで是非と問うたところで何になるんだろうか。日本はアジア最強ではない。最高峰の、最先端の(という言い方がこそばいなら「モダンな」)サッカーをする、「アジアの」強国の1つにすぎない。そしてその地位も盤石ではない。だいたい、あのブラジルでさえ、W杯の予選や南米選手権でかつての弱国に苦戦する時代、いまの日本程度で最強に君臨し続けられるわけがないんだけどなぁ。湾岸地域だって東南アジアだって、世界の時流に乗っていこうと努力している。選手層は厚くなったかもしれないが、試合運び、個人技、体力、戦術理解、思考力などは、10年前から大して変わっていない。いうなれば、それまで勉強の仕方が悪くて九九ができなかった子が、一所懸命勉強して九九が完璧になったところで、他の子を大きく上回っていることがあろうか?まぁ、日本の場合は九九を覚えたのに3桁の足し算を忘れちゃうようなマヌケな展開になってる気がしないでもないけど。
閑話休題
つまり、過剰な期待、無駄なスター待望論、勝手にスター扱いしておいてけなす自作自演、といったサッカーには関係ないところでの無駄な動きで、サッカーをつぶさないでほしいわけです。もっとも、川渕さんからして「スターがほしい」とか「視聴率が」みたいなことを言ってるんだから*4、何とかしてほしいところだ。そういう点では、今やJ2が理想の世界な気がする。あの「おらが町のチーム」の熱心さが集約して代表が強くなると思うし。そうしたいなら、黙ってJリーグを応援しろってことで、ひとつ。代表だけ見てるのも良いけど、きっと損してると思う。そういう人は。


5)まとめ
コンフェデ出場権を失ったのが痛い。コレにつきる。このまま結果が出ない選手がいるなら、あっという間にU世代との融合が進んでレギュラー獲られると思うけどね。がんばってほしいところです。みんな。

*1:闘莉王と播戸は怪我。稲本と中田浩二は移籍のドタバタ、三都主と宮本は早々にチームに合流している。U20世代はカナダだったし

*2:もちろん真剣でなくてはいけないが、のちのちにまで影響を与えるような落ち込みにはならんでしょう、ってこと

*3:アタックのラストを飾るのはシュートであるのは当然なので

*4:ソースはいちいち出さないけど、各スポーツ誌・紙を参照のこと。アジア杯前のコメントだったかなぁ。キリンチャレンジとかの