「走り」の必要性

いくぶん強引だが、なぜ走らなくてはならないか、に対するカウンターとして、走らなくてもサッカーができる可能性を考える。実はここに大国が苦戦している原因が潜んでいると考える。
90 分後もバテずに走れるようにすることを考えた結果が「走りの効率化」だが、ボールが中心の競技であることを考えたときに、(机上論になるが)ボールを絶対に失わなければ攻守にわたって走る必要性が著しく低下する。それを可能にするのは技術(スキル)である。高いボールコントロールのスキルをもつ選手を集め、 90 分間それを高いレベルで実行し続けることができれば、机上論も現実に近づくことができる。今、ボールポゼッションを目指すだけであれば、一番近い位置にいるのはレアルマドリッドだろう。と、ここまで積み上がれば「『走り』の考察」として言いたいことは、ほとんど終わった。つまり、大国の苦戦の大きな原因は、なまじボールを失わないばかりに、そして、個人スキルだけで相手を突破できてしまうがために、走ることについての意識が希薄になっているのではないか、と考えている。サッカーをリードしてきた大国の高い「個」に対抗するため、それを追う各国は「組織力」を鍛え上げた。実際 EURO2004 で見ることができたギリシャデンマークはその典型例だ。一流クラブでプレーしている選手もいるが、残念ながら全員のレベルが高いわけではない。
そして、個(スキル)と組織(チームの決めごとに沿った走り、とも言えるかもしれない)を高いレベルで融合させて素晴らしいパフォーマンスをみせたのが、オランダ×チェコの両チーム。あの試合に限って言えば、両方ともスーパーチームだった。それは、どんな相手でも突破していけるし、わずかな隙間でもパスを通せるスキルがある仲間を持ちながら、受ける側が積極的にパスコースを作り、スペースを空け、流動性を維持しながら相手の守備ブロックをこじ開けた。守備の場合でも、レシーバーにボールが入った瞬間に最も近くにいる選手が素早く間合いを詰め、それ以上ボールを自由にさせない。そうして無駄な移動のエネルギーをセーブしながら、ここぞというときは全力でピンチをカバーするために急行する。
スキルの高いチームの走りの質が高い場合、ボールの動かし方がついてくれば、そのまま試合の質の高さを意味する。もっとも、決定力は関係ないので、残念ながら勝敗は保証されない。これがサッカーの最も理不尽で面白いところだと思う。