vs北朝鮮(BS1)

苦しかった試合も、全てが良い思い出で、経験で、ドラマの一部となった。2-0の完勝をもって、世界最速でドイツ大会への出場権を得た。98年フランス大会での苦しさから比べれば、格段にレベルの高い予選突破だったと思う。プレーオフでの出場ではない、すんなりとした予選突破。予選1位でない(だろうなぁ)のはちょっと悔しいが、出られたことが全て。
北朝鮮は本当に苦しい台所事情で望んだが、たまに見せるカウンターの中で、縦のポジションチェンジを効果的に使った良い組み立てがある他は、日本に互するにはレベルが足らなかったと言える。瞬間の能力が勝っていようが、長丁場の予選では、レベルの落ちない層の厚さと経験が物を言う。その「厚み」の差が出た結果だと思う。それは、イランと日本の関係にも言えることだが。というわけで、個々の感想へ。
川口能活:GK
こういう、不思議な流れの試合では、誰よりも頼りになる。GKからすれば流れがブツブツしている上で、突然ミドルシュートやら鋭いクロスなどに対応しなければならないのは、なかなか難しいところがある。それを当然のようにこなし、北朝鮮の唐突なアタックにも揺るがず。かなり良いミドルシュートも落ち着いて弾き出したり、バックパスもノーミスで処理するなど、終始安定。
田中誠:DF
いつもは守備で貢献する男が、ロスタイム間際の大きな追加点をアシスト。DF全員に言えることだが、なかなか強気に前へプレッシャーをかけ、安定した守備を披露。ミスらしいミスはほぼゼロ。
宮本恒靖:DF
この予選一番の出来。と言っても良いかもしれない。いつもの不安定さ、ポカがなりを潜め、的確なポジショニングと素早いパス回しで最終ラインをフォロー。長めのパスで前線を積極的にうかがってみたり、勝利への意志を感じた。
中澤佑二:DF
負傷が癒えないままでしっかり守る。とはいえ、やはりパフォーマンスはいつもの80%くらいで、無理はせず、しっかり守備を遂行。いつもよりファウルが多かったのは、単純なコンディション要因。相手と対峙したときの冷静な間合いは、いつも通り。言うまでもなく、自ゴール前の制空権もしっかり掌握。
加地亮:MF
前半は立ち上がりで良いグラウンダーを入れたことでも分かるように、積極的に縦を突く。それどころか、中へ切れ込んでシュートを放ってみたり、積極性が高い入り方だったのに、徐々にセーフティに傾倒。前をうかがいながら後ろへ戻したり、スクエアでつないで前へ出て行くプレーが増えていつものパフォーマンスに落ち着く。ちょっと残念。結果的には正しい判断だったのかもしれない。
中田浩二:MF
三都主の代役のため、ディフェンシブハーフではなく、左のアウトサイドでプレー。こちらも加地同様、無理はしないのが前提で、チャンスがあればチャレンジするというスタンス。全体的なパフォーマンスを見ると、決して良かったとは思えないが、カバーリングに奔走したりして、期待通りではないにしても、貢献度は高かったと言って良いと思う。
福西崇史:MF
このところの試合同様、どちらかと言えば守備に専念。そして、クールにキラーぶりを発揮。つなぎ、長いパス、展開などいつも通りのプレーで終始安定。
稲本潤一:MF
立ち上がりはなんだかおかしかったが、時間が経つにつれて、見たことがある稲本のプレーに戻った。プレミアでプレーしていたからなのか、荒っぽいように見えるプレーが多く目についた気もする。それから、ボールコントロールの精度は高まっていると感じたので、パスやシュートの精度も欲しい。言い忘れたが、2点目のきっかけとなった縦へのフィードは、オーバーラップに並ぶ稲本の持ち味が出た場面だった。
小笠原満男:MF
調子の良いときの「鹿島の小笠原」がタイに降臨した感じ。背後からプレッシャーを受けながら、厳しいスライディングで転ばされながら、キレることなく、淡々とチャンスを狙い、鈴木が反応できないようなトリッキーなアイディアまで披露した。さばく、持つ、の選択が非常に良く、今日の出来であれば1人でコントローラーを任せられると思う。厳しいコンディションの中で運動量は落ちず、守備にも走り回り高い貢献度を示した。
柳沢敦:FW
「喉から手が出るほど」などという生やさしい表現では間に合わないほど欲しかった先制点をゲット。さすがにピッチと気候のコンディションが悪く、前節、前々節のような綺麗な動きだしというわけにはいかなかったが、調子は維持。期待されたセンター3人の「鹿島トライアングル」は、鈴木の不調で不発。その代わり、自分と似たタイプの大黒が投入されたことでスペースができ、生き返ったように動き回って結果を出した。守備固めのために遠藤と交代で退く。間違いなく今日の殊勲。
鈴木隆行:FW
柳沢と並び、後ろに小笠原、左に中田浩という「鹿島閥」で期待されたハーモニーの中心にいながらも不発。この人のところで攻撃がストップする回数が多発。しかも今日の主審は生半可なクラッシュでは笛を吹かないので、ファウルゲッターとはなれず。前を向くでもなく、ポストをするでもなく、流れの中でのパスにもチグハグな反応をして、ややお荷物状態。前半終了と同時にで大黒と交代。
大黒将志:FW
後半最初から日本に新しい流れを引き込んだ。G大阪で見せるような積極的なシュートの姿勢を見せる期待通りの動き。柳沢の先制シーンでは、稲本からの長いフィードに触れなかったものの、前でつぶれることで結果的にチャンスを生んだ。また、ロスタイム寸前で、押し上げてインターセプトした田中誠からのロングフィードに、オフサイドギリギリで抜け出して勝負を決定づける2点目をゲット。今日のFW陣は大黒も含めて、幾度かオフサイドで縦に抜けた場面を取り消されており、そういう意味ではリハーサルが済んでいたのが良かった。FWでオフサイドによく引っかかる人を嫌うことがあるが、言ってみれば大ばくちなのだから、タイミングを計ってどんどんすべき。そういう意味では大黒は流れを引き込む積極性も持ち合わせた、まさに適任者だったといえるかもしれない。
遠藤保仁:MF
残りの時間を考慮し、守備固めで投入される。フレッシュマンとして動き回って守備をする一方、きちんと攻撃にも参加し、バランスよくいつものプレーをしていた感じ。G大阪では大黒とホットラインを築きつつあるので、そこからの点も期待できるような調子の良さを披露した。
正直、負ける気はしなかった。ついでに言ってしまえば、北朝鮮とはやっているサッカーの次元と経験値、選手層の厚さ、選手のチョイスによるバリエーションが違いすぎたから。確かに、北朝鮮は競り合いに強い。よく走る。はまったカウンターも鋭い。でも、それだけで勝てるほど、日本は弱くなく、浅くもなかった。あまりに近いために気がつかなかったが、日本代表というグループは確実に勝ち抜くための戦い方を学んでいた。田中誠を踏んづけた北朝鮮の選手の行為は、そのレベルの差を自ら表していたといえる。後味が悪い試合だなぁ…本当に濁すねぇ…。それだけが残念だ。
この成長分は、ジーコのやり方によるところが多い。個人力を上げる。それをベースにチームを作る。というプランの賜と言える。そして「予選を突破する」ための方法として、正しいやり方の1つであると証明してみせた。周りに「ジーコが変わるか、ジーコを変えるかしないとW杯は難しいかもしれない」と吹聴してまわった。最初のジーコと、今のジーコでは中身がずいぶん変わったと思う。つまり、ジーコが変わった。あの頑固な頭も環境が変化させられるんだなぁ、と感慨深い。解任騒動がきっかけだったとは思わないが、それ以外の様々な「ジーコ退任論」も、変化を促したことは想像に難くない。
おめでとうでお疲れ様でした。「ありがとう」っていうのは言わない。ファンの中には「俺たちのために」という人もいるだろうが、監督やスタッフ、選手は、自分たちのためにW杯に出る権利がある。世界最高の舞台で経験を積むため、よりレベルの高いクラブでプレーするため、そしてサッカー選手としてのレベルアップのために。
という、哲学とか信念な話はさておき、自国の代表選手がW杯に出るのを見るのは楽しいし、嬉しい。すぐにコンフェデ杯がやってくるが、今は、突破した余韻を楽しもう。