vs ブラジル戦

前半9分のブラジルの先制点頃から見始める。再放送を捕まえて、もう一度じっくりみたい試合ではある。何しろ、ブラジルのボールと人の動きは、最先端のそれだ。現代サッカーの目指すところを確認する上でも非常に参考になる。
というわけで、コンフェデ杯予選最終節。決勝トーナメントをかけて、勝つことしかない日本と、引き分け以上で進出が決まるブラジル。ちまたでは「本気のブラジル」なる妄想が充満していたが、引き分けで良いなら、ブラジルがMAXパワーでやるわけがない。1〜2点取れればいいのだから。もっと言えば、ブラジルの破壊力を持ってすれば、追いつくくらいは朝飯前のはず。しかも、両翼のカフーロベルト・カルロス、エースのロナウドがいない布陣。出ている選手はきちんとプレーするだろうが、最後の最後まで手を抜かないような展開は望み薄。日本が胸を借りるにはちょうど良いくらいと考えるのが良いのではないだろうか。という斜に構えた状態が戦前の予想。
それでは、個々の予想…とは行かずに、展開についての考察…とか感想。選手で目立ったのは小笠原と中村。特に、この試合での中村の良さを見ると、普段のちゃらんぽらんに見えるプレーぶりは、相手のレベルやシチュエーション次第かと思えた。曰く、ブラジルクラスの強豪相手なら本気だが、それ以外は相手じゃない、と思っているように見えるということ。W杯予選も、まじめにやっていたのだろうけど、イマイチ「燃えなかった」ということではないかと。これがホントだとすると、相手をなめているようなのは個人的には好きな態度ではないが(と決めつけるのも良くないが…)、ブラジル相手にいつも以上に燃えるというのは分からないでもない。
結局、中村のスーパーゴールとFKから2−2のドローになったのだが、内容は点以上。とにかくボール扱いと、人の動きの質、パス先を探す視野の広さ−まとめてしまえば攻守の切り替えのスピード−が段違い。それがよく分かるのが、両チームがボールを取り返した直後の展開の差。「集中(守備)と拡散(攻撃)」に表れている。
日本は、ボールを取り返すまではブラジルと同じなのだけど、そこからの展開が遅く感じる。原因は、取った人がパス先を探す時間が必ず挟まることと、フォローの選手のポジショニングの甘さだ。理由はいくつかあるが、一番の問題は、ボールを取り返しに行く場面でのフォローに対する心構えのような気がする。相手が強豪の場合「取れる」と想定するよりも「取れなかった場合」を想定したポジショニングになってしまうのは仕方ない。ただ、それが、どんな場面でも起こってしまいがち(=弱気)なところがあったことだと思う。そのため、取った人はパス先を探しているわ、周りはあわててポジションを移すわ、では効果的な展開にならない。それから、前の選手がボールを持ったときに「ボールを失わない」という確信が低い(=信頼が低い)ため、上がってくる選手が少なかったり遅かったりで、攻撃が薄くなりがち。
対するブラジルは、競り合いの場面に対して、「取れる」という前提で動く。取りに行った本人も、周りでフォローしている選手も確信があるから、取り返した瞬間の動きがスムースになるし、ボールも綺麗につながる上、選手の人数も多く、攻撃が分厚い。1点目はまさにその形で失点した。左をロナウジーニョに破られた後は2vs2のカウンターだったのに、気がついたら3vs2になっていた。2点目も同じような感じで、中にきちんと2枚もいた。なにしろブラジルの選手達は、本当によくポジションを修正する。ボールが動くと、それに対応したポジションへ1m単位でスッと動く。さらには、パス交換が巧い(練習でいう「鬼回し」が巧い)ため、プレッシャーがかかる瞬間には、すでにボールは回り始め、どんどん遠くへ逃げていく。パスコースを保持しながら素早くボールを回されたら、取り返すのは至難の技だ。守備にも人の動きの良さは目立っていた。FWから手を抜かず、MFは早い段階で潰しにかかり、DFは簡単につられることなく、振り回されることなく、高いラインで個々の強さを生かし、堅い守備を展開していた。特にセリエでやっているFW・アドリアーノの守備意識がすばらしく、日本にとってはこれが意外とやっかいだったはず。
選手の感想を割愛してまで、両チームの攻守の切り替えについて見てみたが、スキルと少人数戦術での差以外で大きいのが、この部分なのだ。少なくとも、この、集中と拡散、それについてくるボール回しが若年層からもっと浸透していき、A代表になるころに熟成されていれば、もっと高いレベルで戦えるようになるはず。今日のような試合でも良い展開は作れていたし、メキシコに負けちゃうようなブラジルだったとしても、2点取れたのだから(個人の力によるところが大きいが)。展開を早くすることで、もう少し相手をおびやかしながら戦うことができる。つまり、レベルの高いカウンターを「脅威」としてちらつかせることによって、相手の確信レベルを落とし、攻撃を鈍らせると同時に、その鈍ったところをもう一度奪ってカウンターをかますといった、嫌らしい攻撃が期待できるという具合。もっとも、相手は手練れなので相当鋭いカウンターを披露する必要はある。
何はともあれ、コンフェデ杯は終わったが、手ぶらで帰ったわけではないはず。ぬるい技術委員会などは放っておいて、選手個々で感じることを詰めていけばいいのではないだろうか。東アジア選手権もあることだし。今年から来年まで、忙しいのが続くなぁ。