vsアメリカ

2006年の初戦。FIFAランキング7位のアメリカが相手…なんだけども、双方海外組がおらず、国内組同士の対決となった。アメリカが「隠れた強豪」とか「意外と強い」とか言われるが、この国がちゃんと強化を続けてきたのは、FIFAランキングが物語っている。対外試合の組めない(財政的な原因が主で)アフリカなどは、日本より間違いなく強いと思うところでも、20位以下にいるわけで。
レーニングの疲れなどがあるらしいのはメディアから伝わってきているが、それを差し引いても簡単にいかないことは間違いなく。仮想オーストラリアというには、ちょっとリッチすぎると思っていた。
立ち上がりはそこそこだったが、途中からアメリカの一方的なペース。久保が機能せず、ボールが収まらない上、中盤でのミスが多いことで見切ったのか、後ろを手薄にして前掛かりになっても問題ないと判断されたようで、まぁ、ゴール前に人が多いこと。アメリカの1点目は、それまで丁寧に外を突いていたのと対照的に、中盤から斜め中央に長いパスを入れ、ポストで落としたところを後ろからフォローしたDFポープがダイレクトで叩いた、教科書のような形。2点目も、手本としたい中央突破。ドリブルで切り込んでゴチャったところから、センターに張っていたFWが壁となってワンツーで抜け出したダイレクトシュート。3点目はコーナーキックから、中澤が滑って遅れたところを、フリーで飛び込まれて万事休す。この前半だけで勝負あったりという感じ。後半2点返されたものの、「格下」相手に前半だけで3点取った試合展開は問題ない。後半は、足が止まりかけたところで日本が機能し始めてのものなので(主力も下がったし)、さほど問題にすることではないと思う。
一方の日本は、前半はガンガンやられっぱなし。とにかく全員悪い。簡単にボールをロストするし、ルーズボールは拾えないし、守備は後手を回るし…。後半になって大幅にメンバーが変わってから、加地のサイドアタックから巻の頭とCKから中澤がボレーで2点を返したが、内容的には最悪に近い出来。
では、個々の感想を。


川口能活:GK
正直「かわいそう」だった。本人は集中力もあり、身体も動いていたのに、3失点のいずれもノーチャンス。ピンチをいくつも凌いだのに、DFがザルの上、展開を早くしたくてもレシーバーがフリーになっていない(ように見えた)ので、いつものような素早いフィードをすることもできず。スーパーではないが、まずまずの調子だったと思う。

田中誠:DF
悪くはなかったが重そうな印象。が、MF陣のふがいなさをもろにくらい、立て直しのために後半で退いた。この人が良くも悪くも目立っていなかったということは、日本の右サイドで加地が大ポカををしていたわけでもなく、積極的にあがれるほど優勢でもなかったという証かと。

宮本恒靖:DF
声を荒げるシーンが多かった。コミニュケーションが取れていないというよりは、喝を入れている感じ。早く、しつこく、分厚いアメリカの攻撃に手こずっていたが、自分のミスが直接原因となる失点は無し。連携もあまり悪くなかったのだが、いかんせん、回りと流れが悪すぎた。

中澤佑二:DF
悪い、とまではいかないが、間違いなく良くはなかった。フィジカルコンタクトの強さはいつも通りだったのだが、足下がおぼつかなく、ボールを持っても、相手に対峙しても、良さが出てなかった。とはいえ、尻上がりに調子を上げ、ロスタイムで追撃点をマークした。この人も、身体が重そうな印象。

加地亮:MF・DF
昨年のW杯予選の最終戦でも似たような感想を残しているのだが、世界レベルとJリーグレベルを、日本の好不調に合わせて行ったり来たり。そのときも得点という大きな仕事をしたのだが、この試合も同様に1点目を綺麗にアシスト。この強気をもって右サイドをリードできないものかなぁ…。もう少しドリブルで持ち上がるという積極性と強さがあっても良いんだがなぁ。

三都主アレサンドロ:MF・DF
尻上がりにマシになったが、平均して悪い。特に守備が全く通用せず、再三突破を許し、アメリカにリズムを与えてしまった。身体が重そうな印象はなく、前半〜後半中盤くらいまで、総じて、やってることに意図がない感じがした。例えば、守備時に併走して振り切られるスピードのある相手を前に、縦に蹴り出すだけで抜けようとして取られる。前が空いているからといって、パスコースも考えずに前に行こうとする、など。終了間際の位置取りは良かったのだけど、この人も強豪とやると良い時間帯がとたんに少なくなる感じがする。

遠藤保仁:MF
悪いときの遠藤。ボールは簡単に失うし、守備は後追いになるし、オーバーラップする暇もなし。結局、前半で退いたのだが、遠藤だけを責められるものではない。確かに、コンディションを合わせていけ、というのもあるが、当日になってメンバーを決定するのは監督であるジーコだ。そういうコンディションなのは、合宿中だというのにわからなかったのだろうか。

福西崇史:MF
悪い。良くない。遠藤と一緒。1度だけ左サイドを駆け上がって攻撃参加したのが、数少ない、目立ったプレーか。この状態でスタメンに送り込むのはどうなんだろうか?仮想オーストラリアだから無理に使ったのかもしれんが…。

小笠原満男:MF
一所懸命流れを引き戻そうとかなり活躍していた。これはちょっと嬉しい珍現象だ。これがこのまま続けば良いなぁ。わずか1本だが長距離シュートも放ち、気を吐いていたのだけど、まだチームに大きく影響を与えるほどにはなっていないのが残念。回りとの連携はあんまり良くなかったが、後半にメンバーが替わって、同じように追いかける選手が増えてから、流れを引き戻すことに成功した。この姿勢を続けていけば、最終メンバーに残るべき選手になれるだろう。

小野伸二:MF
ボール扱いはいつも通りだが、パスの精度、守備のタイミングなどがバラバラの上、密集でのコントロールができず、本来の調子からはほど遠い。今回は前の位置に入って、後半から後ろに移動したが、前の位置に入ってプレッシャーの高い地域でのプレーを思い出させるようでないと、小野本来の特徴は目覚めないと思う。

久保竜彦:FW
まだまだだなぁ…という感じ。復帰戦で、アメリカ相手に1Topは重すぎたと思う。某番組の対談を見る限りでは、意識は高かったので期待したが、長期離脱のツケはそう簡単には払いきれないということだろう。わずかな回数ではあったが、落下点にいるときの「制空力」は健在だったが、ついぞボールを引き出す動きはマッチしなかった。前半で交代。

巻誠一郎:FW
後半立ち上がりから、佐藤寿人とともに投入される。なかなか流れが戻らない中で、精力的に前線からボールを追い回し、リズムを作っていこうとする献身的なプレーが目を引いた。その集大成というわけではないだろうが、加地からの「巻向き」なセンタリングをもらって、この試合の1点目をゲットし、日本にリズムをもたらす大きなきっかけを作った。そういう意味でも、結果を残したことを見ても、今の段階ではFWの一番手と言って良いかもしれない。

佐藤寿人:FW
いわゆる「ほろ苦いデビュー戦」かも。本人がそう思っておらず、前向きに考えているのであれば、次で結果は付いてくると思いたい。スピードを生かしてスペースに飛び込む、という持ち味があまり出ず、向いている流れではなかった。もう少し、巻と連携を密にし、巻のエリアのこぼれを積極的に拾うような動きがあっても良かったかも。巻と同様、後半頭から投入されると、ガンガンと追い回して、リズムを引き込もうと奮闘したのは良かった。

阿部勇樹:MF
3点取られ、流れが変わらない中で長谷部とともに投入され、シンプルで強いプレーで流れを引き戻す。「いつの間にこんなに強くなったんだろう?」「なんで遠藤や福西を使わなきゃならなかったんだ?」と感じるくらい、存在感があった。もう少し早い時間から見たかった気もする。流れを変えるという大役はきちっと果たしたと思う。

長谷部誠:MF
佐藤寿人と同じくデビュー戦だったが、長谷部の方が持ち味が出て良かったように思う。ドリブルで競りかけられたときの当たりのこらえ方、パスの精度などは浦和で見るそれと同じ。ただ、加地とのコンビネーションで、浦和で山田が上がってくるようなタイミングで外へはたいてしまい、何度もチャンスをフイにしたのはまずかった。このまま調子が続けば、新戦力として期待できるかも。あとは、もっと厳しいプレッシャーの中で前へ飛び込んでいけるだろうか?というのは残る。


という感じで、ジーコは、自分の中のベストメンバー(調子云々ではなく、本来の力での選抜)という、相変わらず分かったような、分からないようなメンバーで望んだのだ。こういうことして分かるのは、「調子の悪い人はいくら能力が高かろうが、世界最高クラスの選手でもない限り戦力にならない」ということを再認識するだけ。中心と目されている中田や中村でさえ、不調なときは「いらねぇなぁ」というレベルでしかないのだから、他の選手については言うまでもない。調子の良いメンバーで試合を戦うことで、「調子さえよければ使ってもらえる=コンディションは大事にしよう」という意識付けになると思うんだが…。こういう選抜をしているとぬるくなっていくようで心配だ。
負けは負けだが、選手というより、ジーコの試合での考え方がなぁ…。一つだけ良かったのは、後半からすかさず動いて大幅に選手を突っ込んだこと。まだまだ心配はつきないなぁ。