残ったチーム、敗れたチーム

トーナメントは良いカードが多すぎて、見たは良いけど疲れてブログどころではないというのが多い。で、準々決勝で面白いことに気がついたので、忘れないようにメモ。
準々決勝のカードで「順当」だったといえるのは、イタリア×ウクライナのみで、他の3試合は「意外な結果」と感じた人が多いのではないかと思う。アルゼンチンの完成度は疑いようもなく、イングランドのタレントの結集はうらやましいほどで、連覇という言葉は今回のブラジルを目の前にすれば絵空事ではないと感じさせた。
では、なぜ負けたのか?を1つ1つ考えてみる。

1)ドイツ×アルゼンチン
アボンダン・シエリを負傷で失ったのは不運とはいえ、アルゼンチンはドイツの「やり方」に付き合ったのがマズかったと思う。ドイツはアルゼンチンの変幻ぶりに惑わされることなく、中盤なら中盤で、長いボールが入るなら空中戦で、フィールドのどこででも「殲滅戦」を敢行した。そこには勝利への執念があるだけで、自分たちのスタイルというよりサッカーの原点ともいうべき「先守速攻」を徹底するという、ある種のディシプリンめいたものの中で辛抱強く戦って同点弾を叩き込み、PK戦を征した。
潰し合いをしたら分があるのは、「技術は劣るが、集中力が高く、守備固めができる」チーム。守備を固めた後のプレーは、カウンターを徹底するためボールの動かし方がシンプルになりがちで、下手にボールを持つより良い攻撃になる。(日本×ドイツ戦の柳沢→高原のカウンターが良い例)
アルゼンチンは、ドイツにいくら削られても、怒ることなくヘラヘラとして、ドリブルで切り込み、プレッシャーをかけ続ければよかったのだと思う。とはいえ、熱くなった頭が簡単に冷えるなら、警告や退場はゼロなわけで…。

2)イングランド×ポルトガル
とても奇妙な符合なのだが、イングランドとブラジルは、似たようなことがきっかけで敗退したと考えている。キーワードは「中盤と前線の構成」。予選リーグの雑感で述べたのだけど、イングランドは「守備的MFの専門家」をおかない中盤構成と2トップで戦ってきた。決勝トーナメントに入ると、ハーグリーブスを先発させ、1トップに切り替えた。ジョー・コールセカンドトップとして動いているので攻め手が少ないということはないが、ルーニーを退場で失ったのが痛かった。2トップと守備的MFを置く中盤で戦っていたのなら、そのままメンバー交代をすることなく続行したかもしれない。しかし、前線のターゲットとストライカーの役割を期待されているルーニーがいないということは、少なくともターゲットになるFWが1枚必要となる。結局、ポストは出来ないジョー・コールを下げ、クラウチを出すハメとなる。その前に体調不良のベッカムを見切ってレノンを入れたのは、ベッカムのセットプレーよりも、全体の運動量を上げ、押し込むつもりだったと思われるだけに、この退場は想像以上の痛手だったに違いない。もっとも、あのまま点が獲れなければ、結局パワープレーに移行するためにジョー・コールクラウチとする予定はあったと想像できる。
一方のポルトガルは、前節のオランダ戦でデコとコスティーニャを失っているが、幸い(?)にもレギュラーをがっちり固めてはいなかったたため、あまり響いていないような戦い方をする。両サイドにボールが持てる選手がいて「持ち上がるのは外、打つのは中」という形がイングランドよりハッキリしている。ティアゴマニシェ、ペティトの3人は、ティアゴプレーメーカーとして、マニシェが前目の守備的中盤、というように見えるが、基本的に攻守両方をこなす万能の中盤。両翼のフィーゴC・ロナウドは屈指のドリブラーで、パウレタはスーパーではないが、きちっと仕事をするストライカー。走力が落ちることなく動き回るし、まとまりが良く、柔軟な良いチームだった。驚いたのは、キーマンとなりえる、パウレタ、ティアゴフィーゴをレギュラー時間の中で下げたこと。代わって入った、シモン・サブロサ、ヴィアナ、ポスティガも良い選手だが、正直チーム力が落ちるのでは…と思っていた。予選のときに「選手層がな…」と思っていたが、他の大国ほど全員が名を知られていないだけで、さすがに良い選手はいるもんだなぁ、と改めて驚いた。

3)ブラジル×フランス
「ブラジルがイングランドと似てる」と指摘した「中盤と前線の構成」。ブラジルの場合、今のコンディションのロナウドでは、正直1トップは難しい。ロナウジーニョ、カカ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノジウベウト・シルバ、ゼ・ロベルト。この中で「守備ができる」と言い切れるのはゼ・ロベルトだけ。中盤の人数を増やし、ジダンを自由にさせずにボールポゼッションを高めていこうという目的があったのだろうが、この試合のように「分断」させられてしまうと、個の力がフランス選手を遥かに超えていない限り、良い展開は望めるはずもない。そして困ったことに、先に述べたように中盤でボールの取り合いができるのがゼ・ロベルトだけ。これでは辛い試合展開になってしまって当然だろう。ポゼッションサッカーをする以上、ボールを持てる選手が多い方が良いわけだが、結局、取られたのを取り返すのは守備が巧い選手となる。守備的MFをセンターバックに入れて両サイドバックを上げ、一時的に3バックにすることで攻撃に厚みを持たせるような「攻撃での小技」はあったが、中盤守備については全く解決されていなかった。エメルソンの欠場が響いたということになるのかもしれないが…。やはり、トップクラスのチーム相手で守備的中盤が1枚というのは辛すぎる。イングランドがまだマシだった(ルーニーを失っても守備が出来ていた)のは、各選手のスタイルの差による。ジェラードは守備的MFもできるくらいボールの取り合いができ、ベッカムはザルだとは言われてもレアルで守備的MFをやらされてから、サイドにいて身をなげうつような守備をするようになった。ランパードセントラルMFながら、やはり守備はそこそこできる。この状態で「専門家」のハーグリーブスが入るのだから、ブラジルに比べれば中盤の攻防ができて当たり前だ。
「ブラジル」の強さの元は、実は単なる個人技ではなく、ポジショニングのよさを組み合わせた上での個人技に他ならない。ロナウジーニョの弱点が明らかになったことからもそれがよく分かる。フリーでボールを持たせれば世界一と言っても良いが、マンマークで封じなくとも、ボールの出所を押さえ、パスコースを遮断し、ボールを持たれても2人以上で押さえに行く。こういうことが徹底されると、ロナウジーニョは「前線でボールを引き出す動き」は巧くないので、思ったより簡単に無力化されてしまう。また、ポジションを前に置かれたのも不幸だった。ボールを受けるのが巧くなければ、スペースも作れないので、スピードに乗ったドリブルも難しいし、前にレシーバーがいるからこそ生きるドリブルでもある。パスコースを切っていても決定的なパスを送れる怖さとそれを受けるレシーバーがいて、ちょっとバランスを崩したら抜けることができる技術があるからこそ、ロナウジーニョは恐れられているわけで。
一方のフランスは先に述べたとおり守備では「ブラジルの分断」に手を割いた。攻撃ではジダンを中心に、ジダンを頼りすぎることなく、1トップのアンリをおとりに中盤が飛び出す攻撃でブラジルの隙をついた。選手も良かったが、なんと言っても「逃げ切り体制」を考えていい後半での、ドメネク監督の采配につきる。後半の先制後、約10分の間にジュニーニョ・ペルナンブカーノアドリアーノ(これでロナウドと2トップ)、カフーシシーニョ(右サイドの守備よりも攻撃)と攻撃的なカードを切って前がかりになるブラジルに対し、なんとリベリ→ゴブとして2トップに、カカ→ロビーニョドリブラー投入。中盤のゆさぶり&FKゲットが目的と思われる)の直後に、マルダ→ヴィルトール(左サイド、シシーニョと同サイドへアタッカー投入)という「攻撃を止めるな」というメッセージ采配。さらに運動量が落ちたとはいえ、今日唯一のゴールを上げているアンリに代えてサハ(足を止めるな!前線からプレッシャーをかけ続けろ!と取れる)…いやー、しびれる。こんなカードの切り方して負けたら何を言われるか。久々に思い切りが良く意味のある選手交代を見た。

というわけで、思いつきをザラザラと書いてみた。要するに負けチームにはなんらかの決定的な理由があるんだなぁ、ということがわかるもんですね。