システムにまつわる誤った考え方

ここまで「システムとは、チーム内の決め事の 1 つに過ぎない」ということをまとめてきたが、まだシステムに対して勘違いをしている人も多い。それらについてどこが勘違いなのかを考えてみる。

◇システムの相性
百歩譲ってシステムに相性などは存在しない。「 4-4-2 と 3-5-2 で試合をすると、3-5-2 は分が悪い」というようなものは、一切ない。化学の実験をしているわけではないので、こんな法則めいたものが存在する余地はない。例えば、上の例について少々フォローするなら、4-4-2 のチームが、ワイドに張る 3-5-2 の両サイドに空くスペースを上手く使って優位に攻める時間帯が続くことはある。だからといってそれが必勝パターンだったり 3-5-2 のチームが 4-4-2 のチームには勝てないのかというと、そんなことはない。あくまでも人間同士のゲームなのだから、絶対はない。ましてボールを確実に保持することが難しいサッカーなのだから。

◇最強のシステム
相性と似通っているが、こんなものも存在しない。システムはあくまでも「決まりごと」の 1 つ。
存在しうるとすれば「最強のチーム(メンバー)」というものだろうか。ただし、繰り返しになるが、強い(と考えられる、あるいは最近負けのないような)チームが絶対勝つわけではないので、何を持って最強とするか、そもそも最強という言葉に意味があるのかという議論の余地と疑問は残る。あくまでシステムという言葉にこだわるなら、あるチームやある選手達を当てはめるということで考える場合にのみ「最適な(最高の)システム」というものは存在すると思う。「今回選抜された日本代表に最適なシステム」を考えることはあっても「最強のシステム」というのは意味がわからない。「最強のチーム」あるいは「○○(という範囲で)最強のチーム」というのも理解できる。負けないチームがすなわち最強なのだから。いずれにせよ「最強のシステム」など、存在しない。
余談になるが、「最強の日本代表」というのもおかしい。ベストメンバー「だと思う」ならわかるが。「今までで最強の日本代表」もあんまり意味がない。
「最強」とは、代表チームなら W 杯を優勝したチーム、クラブレベルなら自分が参加しているリーグやトーナメントを、1 シーズンで全て獲ったチーム。どちらにせよ、期間限定で使われる言葉のはず。それともう 1 つ。現場で選手達とコミュニケーションができないファンを含めた部外者には、選手達も納得できるベストメンバーとベストのシステムを想定することはできない。ゆえに机上論であり、雑談の範疇に収まるし、現場スタッフや選手達自身にだって、どこかで損得勘定を上手くして、一番プラスが多い形で収めるしかないと思う。というのも、そもそも、 11 人以上の人間を同時に納得させられるものなど、そこかしこに存在すると考える方が難しい。

◇システムに時代遅れはない
戦術的な考え方の発展、選手の技術レベルの進歩によって、現実的ではない選手の配置(システム)があることは否定しない。だからといって、古いとか新しいとかいう尺でシステムを語ることは意味がない。具体的には 4-5-1 を採用したチームが最先端で、4-2-4 が時代遅れということはない。例えば、どうしても点が欲しい場面で 5 人もの FW を同時に使うケースは考えられるし、実際にやる(やった、あるいは考えつく、考えうる)監督もいる。では、その瞬間、そのチームは最新ではないのか?点が欲しいというその試合で最も必要な条件を満たす手段として監督の頭の中に「 5 人の FW を同時に使う」という判断があったにすぎない。

◇議論で出た「最適な(最高の)システム」は幻想
どんなチームであっても試合をするには、相手があって、自分達のコンディションがあって、天候やスタジアムなど外的要因が絡んでくる。故に、その試合の結果論としての「最適なシステム」を思いつくことはできても、試合前に思いつく最適なシステムは、いかに説得力をもったものでも机上論にすぎない*1。しつこいようだが、試合というものが、様々な要素があった上で行われるから。つまり、どこで、どのタイミングで、どんな説得力をもって思いついたシステムであっても、それは単なる空想の範囲を出ない。ケーススタディとして、似通った将来への参考になることはあっても、決定的な仕事をするための絶対的な要素になりはしない。無意味ではないが、コーチ業を営む人以外には、あんまり役に立たない。

*1:とはいえ、その場のベストの布陣をセットしなければならない、それを自分の中で決めなくてはいけない監督という職業はやっぱり大変だと思う