vsブラジル(BS)

グループリーグ最終戦。2点差以上での勝利を求められる日本は、2トップを巻と玉田に変え、サスペンデットを食らった宮本の代わりに坪井、そして注目される中盤は、中田と稲本が底を組み、小笠原と中村で攻撃を組み立てる勝負布陣。が、ブラジルの厚く、高すぎる壁の前にあっけなく屈した。
前半の立ち上がりから軽いジャブを繰り出してきたブラジルは、三都主と玉田の綺麗なコンビネーションから先制点を取られても、全くあせらない。ゆったりと緩急をつけてボールを回し、淡々とアタックを続け、ロナウジーニョが、左よりの位置からシシーニョへのサイドチェンジ1発で日本DFの視線を揺さぶった瞬間、ヘディングでの折り返しをロナウドが続けてヘディングで押し込み、あっさりと同点として前半を折り返す。
後半も変わることなく、ペースアップもダウンもなく、ボールを動かし続けるブラジル。内容は、まるっきりコンフェデの再現。細かくポジションチェンジを続け、ボールを動かし、追い出したかと思うと、クサビやサイドチェンジでスペースをつき、ダイレクトパスでこじ開け、巧みに日本の守備網をかいくぐる。差が全く縮まっていないかのような試合展開。しかも、ロベルト・カルロスカフーの両翼と「カルテット・マジコ」の一角であるアドリアーノをベンチに座らせてもなお、日本は、足元にたどり着いたくらいのレベルでしかない。どうしてもブラジルへの賞賛が続くが致し方ない。いくら贔屓目に見ても全く相手になってなかったのだから。
前2戦から比べれば、かなり果敢な攻撃を続けた日本だったが、結局2度とゴールネットをゆすることは無かった。逆に、左サイドからジルベウトの鋭いドリブルシュート、ジュニーニョ・ペルナンブカーノが得意とするナックル気味の落ちるシュート、そしてゴール前から放たれたロナウドの強烈な、コースを突いたシュートが、川口の手を掠めることも無くゴールへ吸い込まれる。
充分なリードを得た王者は、GKジーダに変えて、昨年のトヨタカップで初代王者となったサンパウロの正GKロジェリオ・セニを、カカとロナウジーニョを下げて、ゼ・ロベルトリカルジーニョを投入して主力温存へ。その後展開は無く、4-1で試合は終了。
では個々の感想をば。

川口能活:GK
失点シーンは全てノーチャンス。その代わり、抑えなければいけないところ、反射神経でどうにかなるところは全て防ぎきり、スーパーぶりを見せ付けた。唯一取れたかも、と思われるジュニーニョ・ペルナンブカーノのミドルは、おそらく手元で予想以上に変化「しなかった」んだと思う。野球でいうところのナックルボールみたいにストン、と落ちただけで。スローのインパクトの瞬間を見たら、足の甲を押し込んでいるような蹴り方だったし。まぁ、あの攻撃力を前にしたら、さすがの川口でも持ちこたえるのは難しい。今大会も、ついぞ、ピッチ上で勝利を味わうことは無かった。

加地亮:DF
好調を維持。幾度と無く深い位置まで進行したが、得点にならず。守備にまわってもずいぶんと走り回ったが、ブラジルに簡単に攻め込ませないためにフィールドを押さえていた、というくらいで、相手に威圧感を与えるほどではなかった。対面していたのがロベルト・カルロスではないから動けたのかもしれないが、逆に考えれば、1.5流くらいの相手ならちゃんと戦えるかもしれない、とも言える。それが常時出るかどうかは別として。

坪井慶介:DF
宮本の代役で中澤とセンターを組む。全くかなわなかった、というほどではないにしろ、やはり、瞬時に訪れる1vs1の中でのブラジル選手のずる賢さや判断のよさ、視野などに手を焼いていた感じがする。つまり、能力はあるんだろうが、経験が足りなかった。

中澤佑二:DF
前半ロスタイムの失点シーン。ボールウォッチャーになってロナウドを視界から外したのが原因。あれを見る限りでは、見た目より一杯一杯だったのかもしれない。最後の最後でちょこっと足が届くところなどは、坪井に比べると効いていたかな、とは思うが、残念ながら世界レベルと真っ向で戦えるというレベルではなかった。こういう間合いみたいなものは経験だと思うので。

三都主アレサンドロ:DF
玉田へのスルーパスがこの試合のハイライト。対個人には相当の自信があるはずのブラジル選手を相手に、苦戦しつつも果敢にドリブルを挑んで、チャンスメイクを狙い続けた。でも…ブラジルの国内リーグでも、三都主くらいのドリブラーはいるだろうなぁ、という感じがした。突破に成功はするけど、その後が押さえられてしまったり、さすがに凌駕するまではいかなかった。上がることが多いシシーニョの裏でチャンスが作りやすかったというのもあるかもしれない。

稲本潤一:MF
とにかく効いていた。もしかしたら、稲本が10人で守ったら0-0でこらえたかもしれない。引き分けじゃ意味が無いけど、そのくらい対抗できていたということ。プレミアでも「弱小」とさられるウェストブロムウィッチで、強豪に対抗する手段をきちっと身に付けていたんだろう。海外に向いている選手は、もしかするとJリーグの上位クラブで「勝者のメンタリティ」を覚えたら、強豪ひしめくリーグの中位〜下位のクラブで中心となって、「強豪に抗う方法」を体験してきた方がいいのかもしれない。なんだかゲームみたいだが、稲本を見ていてそう思った。そして、なおさら松井がいないことが悔やまれた。

中田英寿:MF
最後までスーパーぶりは発動しなかった。通常レベルのMAX状態で挑み、彼ができることは間違いなく満足に行われていたが、そこを超えて…という驚異的な活躍はなかった。イタリアのデビュー戦でユーヴェから2点を取ったときのような、ああいった活躍ができる人のはずなんだが…。試合を俯瞰で見れるようになってから、個としてのスーパーぶりがずいぶんと鳴りを潜めてしまっている気はする。とはいえ、日本代表の中では間違いなく影響力のある活動量と活躍だったと思う。

中村俊輔:MF
多少は動きがあったが、目の前でブラジル選手が細かくポジションを変え、全力ダッシュでチャンスとピンチを嗅ぎ分けてるのを見ていても、やっぱり足元ばっかり、球繋ぎばっかり。得意のFKでも何も起こらず、ミドルを放つわけでもなく。正直言って、W杯の雰囲気に浸りたかっただけなら、ジーコに直訴してベンチからでも眺めてて欲しかった。エースナンバーを背負う人間の活躍ぶりとはいえない。この大会、一番の期待外れ。

小笠原満男:MF
よかった。手放しでよかったと思う。小笠原の限界というのも見えたかもしれないが、試合の中で工夫して自分がやれることは最大限にやっていたし、中盤の攻守でも中心と言って良いくらいの働きをしていた。ペースが落ちたと見えたのかもしれないが、後半で中田浩二と交代。うーん。これは…意味があったとは思えないんだが…。中田を前に出すより、小笠原の攻撃力の方が今は上だと思うんだがなぁ。

巻誠一郎:FW
彼のやれることは全力でやれていた。いつもの通り。ただ、やはり努力でここまで来た「気持ちの人」なので、「技術があったらなぁ…」という惜しい場面が何度もあった。それも、こういった厳しい中での経験があったらなんとでもなりそうなレベルで。欧州のトップリーグで活躍してても、巻よりも下手なプレイヤーはいると思う。どこで、どのタイミングで、どこまで正確にプレーできるか、というのに慣れれば、間違いなく通用する戦力になると思う。

玉田圭司:FW
何をおいても得点したことが最高。代表選出時は、正直、「玉田じゃなくて松井じゃないのか?」と思ったのだが、見事にそれを払拭してもらった。シンプルに鋭く裏へ抜け、キチっとGKの泣き所(肩より上のスミ)へ叩き込んだ。DFの両翼が落ちてたとしても、ジーダからの得点だから価値はある。タラレバだが、2戦目で出ていたらどうなっただろうか。

高原直泰:FW
交代出場で汚名返上…と思いきや、接触プレーで負傷し、5分も立たないうちに大黒と交代。この人には「ツキ」というものがないんじゃないかと思う。02年W杯も04年五輪も逃し、出たと思ったら最後に負傷。結果が出ないってだけで、10番よりはよっぽどがんばってはいただけに、やや不憫。

大黒将志:FW
この試合では裏を取る得意の動きが出ていた。が、残念ながら加点することはできなかった。

中田浩二:MF
中田英を前に出すために小笠原と交代で出場。あの時間、外すんなら中村だったんじゃないんだろうか…。攻めることをメッセージとして送ることはできても、形が変わらない(FWもオフェンシブMFの数も増えてないし…)のでは、ブラジルに混乱すら与えられないじゃないか。短い時間ながら、中田浩の出来自体は、悪くなかったと思う。

同グループのもう1試合、クロアチアvsオーストラリアは、引き分けとなり、オーストラリアがグループリーグを突破。今の、それぞれのチームの出来からすれば、順当な結果となった。あれだけ苦しんだ中で決定力の無さを露呈したクロアチアは、オーストラリアがノっているとはいえ失点してはいけなかっただろう。試合は全く見ていないが、オーストラリアは間違いなく自信をつけている。どこまで上れるか分からないが、素直にエールを送りたい。